東大寺図書館史料調査

東大寺図書館には、現在『大日本古文書』として刊行途上にある東大寺文書の外に、約一万二千七百余点の記録・聖教・経巻が架蔵されている。その内薬師院文庫史料の一部と、宗性・凝然両師図書七百余点にっいては、既に調査・撮影・影写が終了しているものの、それ以外の諸史料はほとんど未調査の状態にある。そこで東大寺図書館の御厚意により、記録・聖教・経巻の調査・撮影に着手する事となった。本年度は昭和五十二年十月十七日より二十二日迄の六日間にわたり、薬師院文庫史料の調査・撮影を行った。
 薬師院文庫は、東大寺内の一子院たる薬師院に旧蔵された史料群であり、昭和二十六年薬師院実美氏の離寺に際して、東大寺に寄贈されたものである。
 薬師院は鎌倉中期に、東大寺学侶実舜法眼を始祖として成立した子院である。以後代々東大寺執行職を保有し、執行所を構成して教学活動の運営、小綱等俗役の支配にあたった。室町後期に正法院と交替で執行に就任する様になったが、永禄年中に正法院が断絶し、慶長年中に薬師院実祐の子息快実が正法院を相続する事により、近世を通して執行職は薬師院の一統に継承された。
 薬師院文庫は(一)薬師院文書(百九十四点)(二)薬師院記録(三百五点)(三)経疏部(十一点)(四)系図及地図其他(二十七点)に分類され、その細目は「薬師院文庫目録」(本所架蔵写真帖6100─2)に明らかである。特に薬師院文書百九十四点中、(ヤ/1/1)より(ヤ/1/184)に至る百八十四点にっいては、昭和十五・十六年に影写が作成され、「東大寺 塔頭 薬師院文書」(3071・65—15)として架蔵されている。
 本年度の採訪では、(一)薬師院文書全点(ヤ/1/1)〜(ヤ/1/194)と、(二)薬師院記録(ヤ/2/1)〜(マ/2/56)の調査・撮影を行なった。なお撮影分の内、本所架蔵影写本に収められていない薬師院文書十点の目録は左記の通りである。

『東京大学史料編纂所報』第13号